先に白状します。私は転職に「失敗」したことがあります。
といっても、書類が通らなかったわけでも、面接で落ち続けたわけでもありません。むしろ逆です。複数の会社から内定をもらいました。それなのに、どこにも行かなかった。……行けなかった、と言うほうが正確かもしれません。
このブログでは普段、データや出典を並べて転職サービスの記事を書いています。でもこの記事には、ランキングも比較表もありません。運営者である私自身の、あまり格好のよくない実体験と、そこから学んだことだけを書きます。
「なんとなく、今より良くなりたい」から始まった
私は機械加工の現場で働く40代です。当時、今の職場に強い不満があったわけではありません。人間関係が壊れていたわけでも、給料が急に下がったわけでもない。
ただ、ふとした瞬間に思うのです。「このままでいいのかな」と。
同じ業種でも、もっと良い環境があるんじゃないか。もう少し評価される場所があるんじゃないか。年齢を考えると、動くなら今が最後のチャンスかもしれない——。
動機を一言にすると「なんとなく、今より良くなりたい」でした。この時点で立ち止まって、「良くって、何が?」と自分に聞いていれば、この後の回り道はなかったと思います。でも当時の私は、その問いを飛ばして走り出しました。
転職活動は、驚くほどうまくいった
同業種への転職を考えて、JACリクルートメントに登録しました。
正直に言うと、活動そのものは想像よりずっとスムーズでした。担当のコンサルタントがつき、希望を聞かれ、求人が紹介される。職務経歴書は添削してもらい、自分では気づいていなかった「アピールの抜け」を指摘されて書き直しました。20年近くやってきた仕事なのに、その価値を自分がいちばん言葉にできていなかったわけです。
在職中の活動でしたが、面接の日程調整はエージェントが間に入ってくれるので、有給を数回使う程度で進みました。「働きながらの転職活動は無理だ」と思っていた自分には、これも発見でした。
そして、複数の会社から内定をもらいました。
ここまで読むと、成功譚に見えると思います。実際、活動としては成功だったんです。「エージェントを使うと、転職活動はこんなに進むのか」という驚きは、今このブログで書いていることの原点になっています。
問題は、ここからでした。
内定を前にして、固まった
内定の連絡をもらったとき、嬉しさより先に来たのは、妙な静けさでした。
さあ選ぼう、と条件を並べました。年収、通勤、仕事の内容、会社の規模。表みたいなものも作りました。今の職場と見比べて、どこが良くてどこが劣るか、何度も眺めました。
決められませんでした。
数字の比較なら、できるんです。A社はここが良い、B社はここが良い、今の職場はここが捨てがたい。でも「じゃあどれを選ぶのか」になると、手が止まる。どの選択肢にも決め手がなく、どの選択肢にも不安がある。
理由は、今なら分かります。「なぜ転職したいのか」に、自分で答えられなかったからです。
「今より良くなりたい」の「良く」が何なのか、私は一度も言語化していませんでした。年収なのか、働き方なのか、評価のされ方なのか。何を手に入れたら「転職して良かった」と言えるのか、その基準を持たないまま、答え(内定)だけが先に揃ってしまった。
照らし合わせる「問い」がないのに、「答え」は選べません。
結局、すべて辞退した
考えて、考えて、最終的に全部辞退しました。
辞退の連絡を入れる前は、本当に気が重かったです。時間を割いてくれた担当コンサルタントにも、面接をしてくれた会社にも申し訳なかった。人の手をこれだけ借りておいて、最後に「やっぱりやめます」と言う自分が、情けなくもありました。
それでも、あのまま「なんとなく」で入社していたら——と、今でも思います。
動機が曖昧なまま入った会社で、いつか何かの不満が出てきたとき(どんな会社でも必ず出てきます)、私はきっとまた思うはずです。「なんとなく、今より良くなりたい」と。そして同じ回り道を、今度は新しい職場でゼロから始める。それは想像するだけで、ぞっとする話でした。
それでも、動いたことに意味はあった
この経験から持ち帰ったものは、はっきり2つあります。
1つ目。転職エージェントを使うと、活動は格段に進めやすいということ。求人探し、書類、日程調整——一人で抱え込むはずだったものの多くを、実際に肩代わりしてもらえました。これは使った人間として断言できます。
2つ目。動機が曖昧なまま動くと、内定が出ても決められないということ。エージェントがどれだけ優秀でも、「なぜ転職するのか」だけは誰も代わりに決めてくれません。サービス選びの前に、自分の「なぜ」を固める。順番はこれが先です。
それから、思わぬ副産物もありました。複数の会社が自分に値段をつけてくれたことで、自分の市場価値をはじめて具体的に知れたこと。そして、今の職場に残るという選択が「消去法」ではなく「選んだ結果」に変わったことです。
転職活動の結果が「転職しない」でも、それは失敗ではありません。むしろ、動いたからこそ選べた答えだと思っています。
同じ回り道をしないために
このブログを始めたのは、この経験があったからです。
当サイトの記事でしつこいくらい「転職の軸」「動機の言語化」と書いているのは、SEOの定型句だからではありません。それを飛ばした人間が、どこで詰まるかを知っているからです。
もしあなたが今、「なんとなく、今より良くなりたい」と思っているなら——その気持ち自体は、何も間違っていません。私と同じです。ただ、求人を見る前に、紙に3つだけ書いてみてください。
- なぜ辞めたいのか(今の職場の何が課題か)
- 転職で何を実現したいのか
- 譲れない条件と、妥協できる条件
15分で終わります。この15分があるかないかで、内定を前にしたときの景色がまったく変わります。書き方の詳しい手順は、こちらにまとめてあります。
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